世界を革命するブログにゃー。

パイナップルについて研究に研究を重ねています。

「ペーストマウンテン」

ペーストマウンテン。

世界の猛者どもがその響きに酔いしれ、今宵もアバロン(ペースト棒)を振るう。

まだ日本には馴染みのない言葉だが、欧米をはじめ、世界各国で今爆発的な広がりを見せている土木建築様式なのだ。

雪に日にはアナグマが住まい、落ち葉散る季節にはピーナッツが畑で取れる、和洋折衷を取り入れたこの建築様式は19世紀の終わり頃にヨーロッパからベトナムを渡り、そして日本へと伝わった。

当時の日本は江戸中期で、園芸様式が主流となっていたが、ペーストマウンテンは瞬く間に農民から商人に広がり、そして武家にまでその様式は浸透した。

ペーストマウンテンの最大の特徴は入り口上部にコマイヌを二体設置し、そしてお互いを向き合すことで魔除けとしていたが、その様式は徐々に衰退を見せ、20世紀の前半にはコマイヌはLEDのペンライトに代わり、入り口玄関を囲むようになった。

また基本的には木造で作られるが、その細部にはバナナの皮が使用され、日が差し込むことでバナナの皮の変色を楽しむことができ、かの有名な葛飾北斎もその情景を風景画として残している。

先日、私の友人がペーストマウンテンである生家を私に売却したいと連絡をよこしてきた。私はぜひとも購入したいと、小切手3000万円分を早々に準備し、友人の生家へと出向いて行ったのだ。友人は小切手を受け取るなり、私のはげかけた頭部を見てこう言った。

「お前には世話んなったな」

友人(以降はK(加藤のK)と呼ぶ)は気性がはげしく、あばら骨の数本が折れていようが木登りをやめない、そんなやんちゃな性格を私は誰より知っていたつもりだった。ついこの間も地下アイドルのライブをKと一緒に観戦したのだが、その時の風貌ときたら、髪の毛は天にまで届くかというぐらい逆立っており、服装は桃色一色で、「はば、ないすでい!」と西洋かぶれな言の葉を何度も連呼していたものだ。だが今、私の前にいるKは5月の突然の雨に打たれ、ひどく弱ったすずめのように服装は茶色でまとめられており、何よりKのポリシーであった長髪は、頭頂部に少しの毛髪を残すのみというありさまだ。とにかく、Kのその突然の変貌に私はしばらく面食らってしまったが、一口茶をすすり気を落ち着かせると、Kにこう問いかけた。

「何を言う。お前はこうして立派にマウンテンを先祖から受け継ぎ守ってきたでないか。これは誇るべきことだぞ。だが、どうしてまたこんな立派なマウンテンボス(アバロン付き)を私に譲ろうと思ったのかね?」

Kはポッケからくしゃくしゃのタバコの箱を取り出し、やっとこさ一本の煙草をひねり出すと、それをくわえるなり、火も点けずに語りだした。

「俺も年とったからさ。たまには誰かのためになることもしてみたくなったのよ。お前がずっとペスマン追いかけてんの知ってたからさ。もうこのマウンテン(エチュード)は俺にはなびかねえんだ。ずっと、枯れたままなのさ。悲しいことにさ」

友人は無数のバナナの皮で覆われた吹き抜け天井をじっと見上げていた。

夕暮れの光が黒く染まったバナナの皮をより黒く浮かび上がらせていた。

私はその、しんと静まり返った空気に少々居心地の悪さを感じ、いささか場に似つかわしくないが、とっさにこんなことをKに問いかけた。

「今年の紅白は、和田アキ子は出るんかね?」

そう言うと彼ははっとしたように目玉を大きくさせ、8秒ほど私の頭頂部をじっと見ておった。それから彼は小さな声で何かをぼそぼそとつぶやきだした。何を言っているかはわからなかったが、短い単語を何度も何度も繰り返しつぶやいているようだった。またひどく怯えた様子で、どこか自分自身を励ますような、そんな感じに私には見えた。Kの挙動は徐々に異常さを増し、両手の指を交互に舐めたり(少し、いやだいぶ左手の指を長い時間舐めているようだった)、はっと立ち上がっては、ひょいひょいと小刻みに飛び跳ねたり。または、床にどべぇと寝そべっては、ぴくりとも動かんようになったり、私はそんな様子を怖く感じながらも、どこかで楽しんで見ていた。

「アページの、とぺしてきます!」

と言ったと思う。Kは突然そう叫ぶと、そそくさとその場を小刻みに飛び跳ねながら離れてしまったのだ。

何かKの気に障るようなことでも言ったかな、次に訪ねる時にはKの好きな浜田屋のペーストまんじゅうでも土産として買ってやるかな。そんなことを考えながら、Kが床に落とした火も点けずにくわえていた煙草を拾うと、それをくわえ、やはりバナナの皮で敷き詰められた吹き抜け天井を見上げるのであった。

すると何か黒い影がふと夕暮れの光を遮ったのだ。

なんだ、カラスでもいるのか?

私の視力は右目0.1、左目0.01しかなく、はっきりとその何かを捉えることができなかったので、胸ポケットに忍ばせていた老眼鏡を取り出し、両方が耳にかけて再度その物を凝視してみたのだ。

あれっ?

「お前、何をやっているんだね?」

私は大の声を上げた。Kが天の井に両手両足をうまくバナナの皮にからませ、まるで洋画で見たスパイダーマンかのごとく、天の井に張り付ているではないか。

Kは大量の汗と微量の尿を天の井から降らし、大きく息を切らしながらこう言った。

「今朝、お前さん言ったよな、この家がすげー高値で売れるって。それでさ、俺はピンとひらめいちゃったのよ。この家を売って、マカオにでも行って一攫千金狙っちまおうかって。でもさ、俺ぁ、気付いちまったんだよ。俺パスポートないじゃん。海外とかいけねーじゃんって。なんかさ、そんなこと考えてたらさ、突然自分がみじめに思えちゃってさ、もう生きてたくなんかねえんだよ!だからさ、もう終わらせてやるんだよ。この家もろともな!」

Kはそう言うとせきをきったかのように大量の小便を放出させた。天の井から降り注ぐKの生きた結晶とも言うべき小便は消え入りそうなオレンジ色の斜陽に照らされ、私を暖かく、そして慈悲深く包み込んだ。あたりまえに生きてきた人間があたりまえでなくなるその狂気たる瞬間を、私は今まさに身をもって感じているのであった。